【其の弐】

【其の参】

冠 徹弥 ”大冠祭2014を語る”インタビュー

【其の壱】

去る6月21日、下北沢SHELTERにて『表冠、裏冠、裏の裏冠2014梅雨』と銘打ち、自らの限界に挑むかのような「二回公演+DJパーティ」を完遂したTHE 冠。その灼熱のステージ上で発表されたのが、冠徹弥の長年の念願のひとつである自身の主宰によるフェスの開催決定だった。9月23日、『大冠祭2014~メタル縛り~』という明快な命題のもと、川崎CLUB CITTA’で実現することになったこのイベントには、THE冠はもちろんのこと、Aldious、NoGoD、SEX MACHINEGUNSといった実に多様でありながら“メタル”を共通項とするバンドたちが集結する。しかも、人間椅子、OUTRAGEという冠自身にとっても大先輩にあたる両バンドも参加を表明。「皆さんご存知の通り、主宰者がいちばん人気ないんですぅ」と泣き笑いの表情を浮かべる不死身の鋼鉄戦士に、今回は、この夢舞台に賭ける想いを語ってもらった。 (取材/文 増田勇一)

 

――先日は表と裏、そして裏の裏までお疲れさまでした。

冠:なんとかやり切りましたね。まさに限界への挑戦でした。正直、しんどかったですよ(笑)。でも同時に、実際やってみると「まだまだやれるな」という気持ちも出てきて。面白かったのは、ずっとライヴでやってきた曲が多かった“表”のみならず、“裏”のほうもすごい盛り上がりだったことで。「表も裏もないやん!」と言いたくなりましたね。そうなってくると、今後はもっとこの曲もやりたいとか、あの曲も久々にやってみようかとか、いろんな考えが出てくるようになって。実は滅多にやってへん曲にこそ、すごいメッセージが込められてたりもしますしね。だから是非、またああいう機会を作りたいなと思います。なにしろ今後、どんどん曲は増えていくわけなんで。

 

――当日、そのステージ上で報告されたことがいくつかありました。まずは、めでたく厄年を抜けたということ(笑)。

冠:ええ、そうなんです。今年、43歳になるということで、いよいよ厄から抜けるぞ、と。だからさらに動き出すぞ、みたいな。とはいえ、厄に入る前からずっと低空飛行のままなんですけど(笑)。ただ、幸いなことに墜落はしてないんですよね。なかなか堕ちないんです。鳥人間コンテストの最後のネバり、みたいな感じが続いていて(笑)。

 

――堕ちないことが何より大事じゃないですか。ここから急上昇を狙えるわけですから。

冠:そうですね。いい風が吹いてくれたらいいな、と。

 

――そ、そんな他力本願な!

冠:あははは! いや、もちろん自力で上がっていこうと思ってますよ。徐々にでも構わないんでね。実際、こうしてずっと活動を続けてきたことによって、いろんな出会いも重ねてきましたし、そこで得た可能性みたいなものを広げていくべき段階に来てるんじゃないかな、と思うんです。そこで、SHELTERのステージでも言ったように、ちょっと自分のイベントをやりたいなという発想が出てきて。しかも、メタルに特化したイベントをね。

 

――そこがすごいと思うんです。なかなかないですよ、メタルに特化したものって。

冠:そうなんですよ。今年の頭に『重ロック』というのをやったじゃないですか(1月10日/下北沢GARDEN)。あれは結構、いろいろ多ジャンルな感じのなかで、重かったり、オモロかったりする、想いを持ったバンドを集めたものだったんですけど、それとはまたちょっと違うもの、言ってしまえば“わかりやすいメタル・イベント”というのをやりたいなと前々から考えてきたんです。若いバンドとかからも「そろそろ冠兄さんも、旗を揚げてくださいよ!」とか言われることが多くなりましたしね。そういう声にもほだされたというか。

 

――なんだかプロレス新団体立ち上げを決意、みたいな匂いのする話ですが。

冠:そうそうそう(笑)。まあでもそんなもんなんですよ。厄も抜けたし、そろそろそういうことをすべき時期じゃないか、と。そう思いながら今年に照準を合わせて計画してきたんです、自分なりに。

 

――近年、ロック・バンドのイベントというのは“異ジャンル融合”というか“異種格闘技”的なものになりがちですよね。実はジャンルの壁なんてないんですよ、というような。そんな風潮が強いなかで、敢えて逆にジャンル感を縛るという発想になったのはどうしてなんでしょうか?

冠:ふふふふ。あのね、そういうイベントもいいんですけど、もうそこらじゅうにあるじゃないですか、同じようなものが。実際、自分でもいろんなのを観てきて、ジャンルがバラバラな感じこそが面白い、“混ぜるな危険”なものを敢えて混ぜてるほうが面白いというのも確かにあるはずだとは思ってるんです。だけどそういうものが乱立し過ぎてきてるというか……逆にお客さんはそろそろ縛ってあるものを観たくなってきてるんじゃないか、と。それこそね、今、デカいイベンターさんが主催してるメタル・フェスとかでも、結局はミクスチャー的なバンドやったり、歌謡ロック的なものやったり、いろんなジャンルの出演者が混ざってたりするわけなんですよ。ならばもっと絞ったものをやってみたいな、と。そのほうが絶対楽しいというか、縛りがあるからこその濃い楽しみに繋がるんじゃないかと思うんですよ。もちろん、それによってメタルへの興味が薄い人たちを寄せ付けないものになってしまうという危険性も出てはきますよ。でも、そうやって縛ることによって、改めてじっくりとメタルの本質みたいなものに触れてみたいというような人たちが、壁の外側から観に来てくれるんじゃないかという希望も持ってるし。だから俺は、ジャンルを取っ払っていろんなものを集めるよりは、そっちのほうをやってみたいな、と。あとはまあ単純に、俺自身がメタルが好きなんで(笑)。そういうバンドをたくさん観たいし、そういうバンドと一緒にやりたい。単純にそういう部分もあるんです。

 

――もちろん冠さん自身、一緒にやりたい相手はメタルに限らないはずですけど、このジャンルの人たちって各々に独立性が高いと思うんですよ。あんまり「みんなでシーンを作っていこうぜ!」みたいな感じではないというか。だからこそ自分が立ち上がることにした、という部分もあるんじゃないですか?

冠:もちろん、それもありますね。ただ、出てくださる皆さんがどう思ってるかは、まだちょっとわからないところもありますけど、これをやることによって、ここから何か、ひとつのカタマリとしてすごいパワーが生まれるんちゃうかな、と思ってるところがあって。今、それこそ若いラウド・ロック・バンドたちが仲間意識を持って盛り上げてる感じとはまたちょっと違ったパワーがね。しかも今、メタルって実は熱いと思うんですよ。若い子たちがメタルって言葉を普通に使うようになってるじゃないですか。それこそメタルコアとかも含めてね。俺たちの世代が暗黒の時代と呼んできた90年代とは違ったメタルの解釈というのが今はあるんですよね。あの当時、メタル自体が“終わったもの”みたいな扱いをされていたわけですけど、今はある意味、すごく幅広い層に聴かれてるジャンルともいえるんじゃないかと思うし、単純にカッコいいものとして若い子たちからも認識されるようになってきたというか。そのメタルってものに縛ったものをやることで、実はメタルにもいろいろあるんだってことを伝えられる機会にもなるんじゃないかと思ってるんです。

(以下、“其の弐”につづく)

 

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