Against The Current
IN OUR BONES WORLD TOUR JAPAN 2016
2016.09.13 tue at 東京 TSUTAYA O-EAST
open 18:30/start 19:30
激カワなだけじゃない、新たなカリスマの誕生!!
表現者クリッシーが魅せる“本気”のステージ!
会場敷地から溢れでる人波。雨のド平日には似つかわしくない熱気を孕んだ群衆が、Against The Current(以下ATC)の再来日公演、その開演を待ち焦がれている。それもそのはずで、4月に予定されていた待望の再来日公演は、メンバーの体調不良により延期となり、半年を経ての今日が振替公演というわけだ。
前回来日時の東京公演はTSUTAYA O-WEST。即ソールドアウトとなったため急遽の1日2回公演となったが、今回は軽く倍を超えるキャパでのO-EASTにて、堂々の単独公演である。フロアは見事にパンパンだ。アイドル的人気を博す歌姫クリッシー・コスタンザ擁するATC、やはり二十歳前後の女性ファンが多いが、ワンオクTeeのロック・キッズから(※前回の来日時は、楽曲『Dreaming Alone』でのTAKAとの共演もあり、ONE OK ROCKの幕張メッセ公演にてゲスト出演も果たした)、学生服姿の男子、前回来日時のクリッシーをコスプレしたセクシーな女性まで、実に様々なファンが今や遅しとステージを見つめている。
開演定刻、そんなジリジリが溜まったオーディエンスたちの気持ちを、まずはオープニング・アクトで登場したThe Winking Owlが清々しい熱を持ったサウンドとともに解放する。彼らも女性ボーカルを擁するバンドだ。疾走感と炸裂感を伴うサウンドに、女性ならではの彩りを持ったLuizaの歌が独自の世界を描いていく。4曲20分という短いステージながら、アプローチは違えどATCファンの心もくすぐり、衝動感が満載の胸躍らせるステージングだった。
そして、突如その時は訪れる。場内暗転、鳴り響くザッピング・ノイズ、途切れ途切れに聴こえてくるATCの楽曲……薄暗いステージ上にはボンヤリと5人の人影が。オープニングSEをかき消すような歓声が巻き起こる中、一曲目は『Runaway』。ジラしも仕掛けもない、至って淡々と始まったオープニングではあるのだが、幕開け的な華々しさは歌うクリッシーの存在で充分だった。ド頭からハンパない歌のエナジー感、ステージでの躍動感。音源では爽やかなギターの広がりと軽快なリズムワークが80’sを感じさせる、洗練されたポップ・ナンバーだが、なんたるライブ感! 立体感! そして2曲目も音源とは印象がまるで異なる、脈動するかのように生き生きとした『Forget Me Now』をプレイ。そのまま前アルバムからのパーティ・チューン『Talk』と来れば、フロアはオープニング3連発で爆ノリ。スゲーッ!と、ただただ見惚れてしまう。
いや、わかってたことなんです。バンド・ショットやMVでの、クリッシーの淑やかで妖艶な女性像が覆されることは。初来日のO-WEST公演もそうでしたし。その快活でエネルギッシュなパフォーマンスに度肝抜かれましたし……しかし、その想定を遥かに上回るパワフルさ! 1年の年月で、より生々しい迫力とスキルを手にしたツワモノ表現者として、クリッシーが帰ってきたのである。音源とは譜割りを変えて、よりリズミックに、より緩急のメリハリを増し増しにして楽曲の展開や起伏に躍動感をもたらす。さらには広いステージで縦横にステップを踏み、髪の毛を振り乱して、歌力・曲力を倍増させて魅せる。圧巻だ。
そりゃクリッシーに釘付けにもなるが、表現という面では楽器陣も負けてない。嵩上げされたドラム台を中心にアンプ群をシンメトリーに配したステージの中央で、ただでさえ大柄なDr.ウィル・フェリはダイナミックなドラミングを魅せつける。軌道の長いストロークは見た目も音もインパクト絶大で、ボトムの効いた『Outsiders』『Paralyzed』といったミディアム・ナンバーをより力強く、エモーショナルに、鼓膜から腹の底まで震わせる。Gt.ダン・ガウは、ブロックごとに目まぐるしく情景を変えていくATCの楽曲を、時に空気を裂くようなソリッドさで、時に幻想的に空間を染め上げるエフェクティブなサウンドで多彩に色付けていく。バラード『Chasing Ghosts』や、続く『Roses』などの雄大なスケール感を描写する楽曲では、その空間表現の巧みさが見事に発揮される。今回はサポート・ギターも伴ってのステージだったのだが、2本の絡みはもちろん、さらに同期音源との絡みも相乗効果的に折重なり、絶品の広がりを聴かせる。
中盤ではATCメンバー3人のみでアコースティック・セッションのコーナーも。『Infinity』ではクリッシーの甘く優しく、そして澄んだ歌声が会場の空気を浄化するように響き渡る。またATCといえば火付け役はYouTubeで楽しめるカヴァー曲の数々。というわけで、ジャスティン・ビーバーが歌う『Cold Warter』『Love Yourself』の2曲を巧みなアレンジでカヴァー。シンプルなサウンド構成の中、演奏を楽しみながらもシレッと抜群の表現力を見せつける3人。セット・リストにおいてはゆったりした時間というか、お楽しみの一幕ではあるのだが、何気にその実力の高さが浮き彫りになる瞬間でもあった。3人はそのアコースティック編成のままで、ベースとギターを呼び込んで披露されたのは、最新アルバムのタイトル曲『In Our Bones』。エレクトリック楽器が加わることでより音像は厚くなったが、ダンとウィルのアコースティック楽器による温かい肌触りはそのままに、清らかで美しい音像を構築していく。クリッシーのファルセットを織り交ぜたボーカリゼイションが空間に、そして観る者の心の中に浸透し広がっていく。
そんな心地よい空気が漂う中、緊張感を孕んだ荘厳なSEが押し寄せる。最新アルバムから『Running with the Wild Things』。歌う妖精のようだったクリッシーは再び激情の歌姫へと豹変。ウィルのビートが腰を突き動かし、のたうつようなダンのズ太く歪んだギターが血をたぎらせる。コーラスワークとハンドクラップでフロアに一体感が生まれた中、次曲のイントロが流れると会場は悲鳴のような歓声に沸き返る。ONE OK ROCKのカヴァー『The Beginning』。1stアルバム[GRAVITY]を聴いた人はご存知だろうが、これがまた秀逸なカヴァーかつハマりようなのだ。自身の曲のごとく感情を爆発させて歌うクリッシーの姿にフロアはさらなる熱量で応え、今夜のピークへ向かって突っ走る。
最新MVになった『Wasteland』では、幻想的な音世界の中で無垢の少女のようなクリッシーが感情を一気に噴き上げる。時に膝まづき、仰け反り、小柄ながらも全身を声の増幅器へと変えて圧巻のパフォーマンス。『Brighter』は美しくも勇壮な旋律に心高ぶる名バラード。フロアから差し出される無数の手の先には、前へと向かう歩みをアジテートするかのようなクリッシーの堂々たる姿が。ポップでキュートな側面を持つ楽曲もATCには多々ある。だが、今回の来日公演でのクリッシーから漂うオーラは“強い女性像”だ。美しいだけでも歌が上手いだけでもない、何より強い、そんな新しいカリスマの誕生を思わせる。本編ラストを飾るのは『Another You』。1時間を超えても彼女のエモーションは加速をやめない。ステージ上を所狭しと駆け回り、躍動し、残された力を声に載せて出し尽くすかのようにパフォーマンス。その“本気”の姿にフロアからは自然と大合唱が巻き起こる。
オーディエンスは当然アンコール。今日のステージの素晴らしさをそのまま反映したかように、凄まじく力強いハンドクラップが鳴り響く。そんな中、ピアノ音源のイントロが流れ、クリッシーが歌いながらステージ中央へと進んでくる。前述した、TAKA(ONE OK ROCK)が参加したバラード『Dreaming Alone』だ。歓声は合唱へと変わり、クリッシーの声に折重なって会場を歌が満たしたところでバンド・イン。楽曲パワーに加え、ドラマティックな自然の演出も引き寄せ、ここに来てさらなる鳥肌モノの感動を生み出す。そして絶頂をキープしたままオーラス曲『Gravity』へと流れ、フロアの声と熱はさらに上昇。これまで以上に晴れやかな表情を見せるメンバー、そして堂々たる貫禄を帯びたクリッシーの姿が光輝いている。素晴らしい大団円をもってATCの再来日・東京公演は幕を閉じた。
1年ぶりに観たクリッシーは、表現者として驚くべき成長を遂げていた。その喜びと、昨年はO-WEST、今年はO-EASTという会場で比較的ステージ間近で観れたことを素直に喜びたい。恐らく次回の来日公演は、さらに規模の大きな会場になるだろうから。これだけの実力とキャリアがありながら、さらに“本気の”パフォーマンスを徹底的に観せるAgainst The Current。ライブが本当に貴重な空間、時間であることを改めて痛感させてくれた。確かに“激カワ”、確かに“間違いのない歌唱力”。だがアマイ。実際のステージを見れば、そんなキーワードはどっかに消し飛ぶ、文句無しに最強の女性アーティストであり、新たなるカリスマの誕生、それを今回、オーディエンスの心に刻み込んだはずである。次の来日公演でさらに大きくなったAgainst The Currentが観れることを期待せずにはいられない。
[TEXT by GO NEMOTO]
[PHOTO by SOSHI SETANI]