歌を愛し歌に愛されたシンガーソングライター
カノエラナ、ハタチの大いなる決意表明！

　いよいよ年の瀬も押し迫った12月の渋谷。イベントシーズンの到来に街が一層浮かれようが、それでも身を刺すような寒風が雑踏を吹き抜ける。だが、この夜はなんとも素敵なひと時を味わわせてもらった。佐賀県唐津から昨年春に上京したばかりのシンガーソングライター・カノエラナ。その歌は身も心も温かく包みこみ、その笑顔の輝きは心躍らせるワクワク感に溢れていた。

　この日は彼女のバースデーイベントだ。記念すべき二十歳の誕生日を祝うべく、会場のMilkywayにはおよそ300人のファンが集まった。いや、ファンだけではない。まず初めに本日のサポートゲスト・井上緑BANDが高らかに祝砲をあげる。現役大学生のシンガーソングライター井上緑とは、カノエラナが上京初ライブをした時にも共演を果たしたという縁があるとのこと。ピュアで繊細な歌声は、力強いバンドサウンドに乗って、フロアの温度を一気に上げていく。 少年のような蒼 さはあれど、同時に毒気も孕んだ鋭いトゲが聴く者の胸を貫く。
　続いて登場した二組目のゲストは、多くの男性ファンにも愛されるキュートなシンガーソングライター中村千尋。この日はピアノとのユニットという編成だ。ふんわり包み込むような甘い歌声、そしてピアノとのアンサンブルによるドリーミンなサウンドは、優しくも強烈な個性をもって会場をキラッキラに塗り変えていく。
　短時間ながらもそれぞれの世界観をキッチリ作り上げ、会場に笑顔を満たしたゲスト2組のステージ。“歌”こそ最大の武器とし、それを研ぎ澄ましてきたツワモノ達である。もちろん見事だった。そしてそれは本日の主役も同様だ。この日二十歳を迎えたばかりの少女による、圧巻のステージが始まった。

　一曲目は、“名刺代わり”という言葉がこれ以上ハマる曲もないであろう自己紹介ナンバー［カノエラナです。］。歌詞にある通り、身長153の小柄な身体に抱えられたYAMAHAのアコギからはズ太いリフが疾走する。トレードマークである前髪ナナメの奥からしっかりフロアを見据え、ブルージーな節回しのロックナンバーを炸裂させる。冒頭はキリッとした表情で幕を開けた。
　いきなり堂々とした風格を見せつけたかと思いきや、2曲目を終えてのMCでは「お客さんがたくさんいるぅぅぅ〜！」と、開口一番、本来の 素の顔が飛び出す。さらには。
「寒い中、ありがとうございます。小っちゃか女の子とか前に来てください。たぶん見えないですよね？　私もこういうライブん時とか、切ない気持ちで後ろから観てることが多いんですよ。だけん、もし譲っていただける方は、小っちゃい子を前に前にと追いやってくれると嬉しいです（笑）」
　唐津弁丸出しでピュアな優しさを見せる。周りを見渡せば、学生服を着た、彼女よりもさらに若いであろうファンもチラホラ。恐らくライブハウス初体験というファンも多いだろう。緊張を解きほぐすかのように、ホッコリとしたアットホームな空気がフロアに漂う。冒頭のクールなロックナンバーを歌う彼女、その後のナチュラルな笑顔で話す彼女、そのギャップがもらたす魅力は一瞬でオーディエンスを引き込んでいく。

　そして続く［あなたとわたし、あかねいろ］、［I］の2曲は、観客の耳目と心を釘付けにしてしまう圧巻の歌力。グッと大人な、グッと女性的な魅力に満ちたヴォーカリゼーションで、その声の艶は会場の隅々まで充満し、オーディエンスの心に浸透していく。心のひだを声音に乗せて巧みに表現する歌唱力の高さに見惚れてしまう。また、その歌の表情をさらに盛り立てるのが、潔いストロークからハジき出されるアコギ。歌と一糸乱れぬ瞬発力を持って、時に大胆に、時に繊細に、歌の背景を彩っていく。カノエラナ弱冠ハタチ（なりたて）、恐るべしである。
　ちなみに［I］はGENEIシリーズ最新作のWEB小説［幻影に舞う白銀］のイメージソングとして、12月16日にiTunes Store、レコチョクにて配信開始となった。この日は先に述べたように、自身の歌とアコギのみによるシンプルなアンサンブルで、彼女の歌力が 特にフィーチュアされていた感じだが、音源では本人曰く「バッキバキのロックサウンド」とのこと。ぜひ楽曲の秀逸さも含めチェックしていただきたい。

　さて、そんな粒ぞろいで振り幅の大きな楽曲群を、多彩かつ驚くべき表現力・浸透力をもって曲を昇華させていく彼女。その見応えの密度の濃さは時間を忘れさせる。本編ラストを飾るのは、彼女の等身大のイメージに近い、明るさと前向きさを天真爛漫に映し出した［こまか］、その独特なPOPな詞世界が顕著に表れた［ヒトミシリ］の2曲。ハンドクラップや掛け声など、オーディエンスも参加してのハッピーなエンディングを迎えた。

　エンディングに向けて上昇を続けた熱は冷めることなく、会場内にアンコールの手拍子が大反響する。そんな中ステージを覆うスクリーンが下され、そこに映し出されたのは、クエスト系の名作RPGをパロッたオフザケ感満載の映像、そしてナレーション。笑いがこぼれる一幕だったが、［カノエクエスト 〜クアトロ城に集いし、500人の勇者達〜］の文言とともに、笑いはどよめきへ、そして大歓声へと変わった。2016年3月31日渋谷クラブクアトロ・ワンマン決行の告知である。ちなみに500人とは渋谷クアトロの収容人数。
「いやぁ、500人。今の私には無謀な数字かもしれないんですよね。それは私もよくわかってて。それを承知で、“逃げる”というコマンドを押さずに“戦う”コマンドを押します！」

　アンコールでは、弾き語りアレンジした『新世紀エヴァンゲリオン』のオープニング曲『残酷な天使のテーゼ』を本気度全開で熱唱。さらにゲストギタリスト森広隆を呼び込み、森広隆プロデュース曲『僕はロボット』を披露した。同曲では、アコギを置いてハンドマイクで歌うことで、より躍動感と起伏に富んだリズミックな歌声も印象的だった。

　と、ここで全てのセットメニューを終えたわけだが、今夜はなんせハタチの誕生日である。出演者全員を呼び込み大団円！だけでは終わらない。バースデーケーキと、来場者によるお祝いコメントがビッシリ入った寄せ書き（当日、本人には内緒で、物販ブースにてコメントの寄せ書きが募られていた）がサプライズ登場！　湧き起こった［ハッピーバースデー］の大合唱に包まれ、ステージ上で思わず涙するカノエラナ。その姿は、先ほどまで圧巻の表現力をもって堂々たるステージを見せつけた若きアーティストから、ハタチになったばかりの小柄で純朴な女の子に戻っていた。

　好きなモノを追い求め続けること、それはきっと楽しいことばかりじゃないはず。好きだからこそ避けられない試練や葛藤があるはずで、そこに人一倍真摯に向き合い、乗り越えたからこそ手に入れられたモノがある。それが彼女の場合は、やはり“歌う ”ということだろう。
「いつか本気で笑って歌えるようになるまでは這いつくばって歌うんだ、それしか方法はないから」
「何回突き落とされたって、君は僕の手を離さない　苦しい時に限って音の粒は生まれて来るんだ」
この日、中盤で披露された、ハタチを前に作ったという曲［キミにコイしてニジュウネン］の歌詞だが、シンガーソングライターとして突き進む、まさに彼女の決意表明と捉えて良いだろう。大丈夫。この日、集まった300人の心には、間違いなく彼女の爪痕がキッチリ刻まれている。歌を愛し、歌に愛される彼女。そんな彼女は、一目見ただけで応援したくなるような、希望に満ちた輝きに溢れてる。勇者カノエラナの大いなる「歌い手クエスト」はまだ始まったばかりだ。

[ TEXT by GO NEMOTO ]
[ PHOTO by EMI niikura ]