Celtic Woman
VOICES OF ANGELS
2017.09.13 wed at 東京 Bunkamuraオーチャードホール
open 18:00/start 19:00
アイルランドの歌姫が6年ぶりの来日
伝統と革新のフュージョンによるケルトな一夜!!
今年4月に代表曲なども収録したベスト的内容のニューアルバム[ヴォイセズ・オブ・エンジェルズ]をリリースした、ケルティック・ウーマンが、来日公演を行なった。今回の来日は6年ぶりということもあって、平日にもかかわらず早い時間から多くの観客が訪れ、開演までの時間をホワイエやビュッフェで会話に花を咲かせている。一見したところ、年配のご夫婦や親子づれ、若いカップルや女性のグループなど客層はじつにさまざまで、ケルティック・ウーマンの人気の高さがうかがえる。
いよいよ開演。期待で膨らんだ観客を一気に興奮させたのは、雷鳴のようなパーカッションの轟きではじまった『すばやき戦士』だ。たっぷりとしたブルーのドレスに身を包んだメアリード、スーザン、エヴァの3人のヴォーカルが登場し、タラの軽やかなフィドルの音色とともに、美しく物語的なハーモニーを聴かせると、会場にはケルトの風が吹き込んでくる感覚。
ピアノ、ギターやブズーキ、パーカッションがふたり、男性のコーラスがふたりを擁した編成で、ステージは装飾のないいたってシンプルな空間である。しかし音が鳴りだすと、目の前にアイルランドの景色や、叙情的な物語が浮かび上がってくるようで、観客の歓声や手拍子が高鳴る。続くセリーヌ・ディオンのヒット曲でもあるカバー『マイ・ハート・ウィル・ゴーン』の高揚感溢れるハーモニーには、拍手が一段と大きく響いた。
スーザンは透明感がありながらもふくよかに伸びのある歌声を、メリアードはどこかポップスにも通じる躍動的な歌声を、そしてエヴァはスモーキーで魅惑的な曲線を描く歌声を、とそれぞれに特徴や個性がはっきりとしたヴォーカルだが、3声が絶妙に交わることで、甘美で幻想的な雰囲気を生んでいる。
日本の音楽にはない、アイルランドの伝統楽器の音色や音階、旋律であるのに、なぜだか郷愁感や切ない思いを掻き立てるのは、この音楽が心や魂に直接訴えかけるものだからだろうか。メアリードがソロを務める荘厳な『ドゥラモン』やエヴァによる『希望にあふれ、涙にあふれる島』といったトラディショナルな曲に、グッと胸を掴まれる。アイルランドの伝統音楽、民謡を受け継ぎ、歌に宿る心や情景はしっかり残しながらも、モダンでアグレッシヴなアレンジでサウンドを更新していくキャッチーさや、ショーとしてのダイナミズムで観客を巻き込んでいく楽しさも、ケルティック・ウーマンの高い人気の理由だ。
『アメイジング・グレース』では、突如客席にバグパイプ奏者が登場して、ステージまで練り歩くサプライズもあり、スーザンの美声とともに曲そのものが持つ高揚感をさらに引き立て、歓声を巻き起こした。『アクロス・ザ・ワールド』の壮大なバンド・アンサンブルから『シー・ムーヴズ・スルー・ジ・フェア』では男女のダンスで沸かせるお芝居のようなステージで魅了し、タラによるハープと3人の透明感あふれるハーモニーの『ダニー・ボーイ』などを披露し、喝采のなかで第1部を終了した。
イエローのドレスへと衣装を変え、より華やかな印象となった第2部は、ヴォーカル3人も鳴り物やアコーディオンをプレイし、壮麗でリズミカルな『テーラ・ウァル・リ』でさらに深くケルト音楽の世界へと連れ立っていく。そして、エンヤのカバー『オリノコ・フロウ』で、会場を神秘的で清らかなコーラスで包み込む。メアリードと鍵盤の演奏でシンプルに聴かせる『アヴェ・マリア』に観客は息を飲み、続く『ウォーク・ビサイド・ミー』のたゆたうような幽玄のメロディで、うっとりと酔う。
心地よい余韻に浸っていると、ステージには太鼓のメンバーが登場して、悠々と、そしてユーモラスなドラミングで盛り上げて、会場を一気に晴れやかな祭りの空気に彩っていった。男性コーラスがアイリッシュダンスで快活なリズムを添えると、観客は大きく手拍子し笑顔で歓声を上げる。次々と場面が変わるような流れに、思わずテンションが上がってしまう。その高揚感をさらに引っ張り上げるように、ケルティック・ウーマンの代表曲であり、歌の力が冴える『ザ・ヴォイス』へと持っていく流れは圧巻だ。
そして、壮大なサウンドスケープをじっくりと描き出していく『ウェスタリング・ホーム』からの終盤は、ケルティック・ウーマンの真骨頂。ハープの美しい音色とともに3人のハーモニーで繊細なタペストリーのごとく編み上げていく『タイム・トゥ・セイ・グッバイ』から、それぞれの歌声を際立たせ、そして3声でひとつの大きな歌へと昇華していく『ユー・レイズ・ミー・アップ』の2曲は、まさにこの日のハイライトだった。
エモーショナルで迫力のある歌には、会場の時が止まったような感覚だ。アルバムタイトルにもある“天使の歌声”にふさわしい、ソウルを震わせる歌と、エンターテインメント性に富んだステージとなった。アンコールには、大きな歓声や拍手が沸き起こり、長い長いスタンディングオベーションで会場は歓喜に包まれた。
[TEXT by 吉羽さおり]
[PHOTO by SOSHI SETANI]