ZAZ
ZAZ JAPAN TOUR 2012~聞かせてよ、愛の歌を~
2012.02.23 thu at 赤坂BLITZ
Open 18:00 / Start 19:00
音楽に言葉の壁は無い!ZAZ初の日本単独ライヴZAZ JAPAN TOUR 2012~聞かせてよ、愛の歌を~@赤坂BLITZライブレポート
フランス語というものは、とても優しく、とても穏やかに、とても甘く聞こえてしまう…そんな感じがした事は無いだろうか。
恋人に囁かれる言葉の一言一言についウットリしてしまいそうになる…甘い甘い愛の言葉にただ耳を傾け、時間の経過を楽しむ事が出来る音域というのがフランス語には含まれている気がしてならないのだ。
ソールドアウトとなった会場の外には開演を待つ長い列が駅まで延びていた。
単独ライヴは今回が初となるZAZだが2009年、彼女はFUJI ROCK FESTIVALで5回のステージに上がっている。
あれから3年という月日が経ち、待ちに待った単独公演となったZAZの歌声を聴きたいと集まったファン層の広さが期待度を物語っている。
開演時間となり19時、ZAZのオープニングアクトとしてマイヤ・ヴィダルが登場。ショートカットで小顔のマイヤが大きなアコーディオンを抱え、日本語で「シモンさんです」とマイヤの紹介でギターが加わる。
トイピアノとバスドラムを自らの手と足で。鉄琴やギター、クラリネットにコルネットをシモンがマイヤの歌声に重ねていく。正直、コレが前座なのか!と驚きを隠せない程であった。
どうやらマイヤの祖母が日本人らしく、丁寧な日本語で「日本には初めてでとっても嬉しいです」と少し照れながらも満面の笑みをプレゼントしてくれた。
20分程の短いステージだったが、一番ビックリしたのはあのRANCIDのPoisonをカヴァーして歌っている事だった。
マイヤとRAICID…最初は聴き間違えかと思ってしまった位に。
しかし、コレはRANCIDの!!と、叫びそうになるものの、パンク界の名曲がマイヤによってとても優しいものとして幅広い客層の心に届いた事が嬉しく感じた。
ステージが暗くなり転換中にも関わらず、会場からは手拍子が起こる。
今か今かと待ちわびたファンの期待を全て乗せた手拍子だった。
ギター2人、ウッドベース、ピアノ、ドラムといった5人のバンドメンバーが登場し演奏が始まり、ステージに「こんばんは!トーキョー!」の声が響き、ZAZの登場。
髪の毛を上で束ね、ヒラヒラした幾重にも重なるフリンジが肩と裾に付いたミニワンピとレギンスに右足が黄色、左足が赤というスニーカーというラフさの中にセンス溢れる姿でステージをぴょんぴょん飛び回る姿からは想像出来ない程の心の奥の奥に届くハスキーヴォイスが”LESPASSANTS(通行人)”から始まる。
主にジャズで使われる歌い方であるスキャット(「ドゥビドゥビ」や「ダバダバ」といった意味を持たないアドリブ)の気持ちよさには言葉に出来ないものであり、ただただ音に体をスウィングしてしまう…ZAZワールドへ吸い込まれていく事の気持ち良さに身を委ね揺れる会場。
「日本に来て、とっても嬉しいです」と日本語で挨拶するZAZに対し会場からは日本語や英語だけでは無く、フランス語までもが飛び交う。
かの有名な小さな雀と呼ばれたフランスのシャンソン歌手の再来と呼ばれたりもするZAZだが、私は全くの別物として思う。ZAZは他の誰でも無く、ZAZはZAZなのだ。何せ彼女の表現力の底力からの振り幅の大きさはシャンソンやジャズだけに収まらず、ポップ、ロックとまさにオールジャンル…いや、彼女にはジャンルなんて言葉すら要らないのだと思う。
ジャズ特有の偶数拍にアクセントを置く事に拘らずに、しゃがれ声から想像する動きのイメージは、落ち着いてまったりとした時間を楽しむ…そんなイメージがあったが、その声からは想像出来ない程の軽やかな動きがステージいっぱいに広がる訳だ。
くるくる回ってジャンプジャンプ!ドラムスティックを手にしてシンバルを叩き、曲が終わったと思ったら、ステージ上のメンバー全員がピクリともしなくなり、もしかしたらこのステージは夢だったのかも知れない!と不思議な世界へと誘ってくれる場面もあったかと思えば、ドラムセットの前に座り、しっとりと歌い上げる姿もある。
幼い頃から音楽学校でピアノやヴァイオリンを習い、ジャズヴォーカルにも惹かれ、ダンスオーケストラの団員としても活躍した彼女だが、ラテンロックバンドで活動したりキャバレーで毎日夜の11時から朝の5時までマイク無しで歌ったり、路上でストリートライヴを行ったり…そんな様々な経験から今のZAZが築かれた。
メジャーデビューしたのは2010年だが、ハスキーヴォイス求む!と書いてあるコンテストを見付け応募し、優勝したのがきっかけでアルバムデビューとなったZAZの勢いはフランスだけにとどまらず、全世界注目のアーティストとして現在に至る。
大きなクラウンがZAZの頭上にあるかの様に見える照明効果があり、カズーを片手に”JE VEUX(私の欲しいもの)”の途中で「Good night!」と言って曲を中断し、会場を沸かせ、会場がひとつになる様にとサビ部分を全員で大合唱。
「Last song!」”SUNSHINE”のイントロが流れ、会場全体が照らされ明るくなり、ひとりひとりの顔を見る様に「ありがとう!」と会場に投げキッスをしてステージを去るZAZ。
私はこんなに大きかったアンコールの拍手や歓声を聞いた事が無かった気がする。全員が全員、心からZAZが見たい!聴きたい!と思う気持ちが伝わってくるアンコールを久しぶりに聞いた。
誰かが拍手してくれるからいいやとか、誰かが声を出してくれるからいいやなど傍観者になりがちの会場は幾度となく見てきたが、会場に居た全ての人がZAZへのラブコールを送っている。
その純粋な気持ちをどこかに忘れていた気がしたが、その気持ちを呼び起こしてくれたのは間違いなくZAZだった。
ZAZが「シューへー!」とステージに招き入れたのはシャンソン評論家の大野修平氏であった。
大野氏はZAZのフランス語を訳し、会場へZAZの言葉を届ける。
途中客席から「間違ってるよー!」との言葉があったが、急遽ステージに呼ばれ緊張しながらもZAZのアツい気持ちを訳さねば!との使命感により大野氏の訳を温かい気持ちで聞き入る会場。
―1930年代の古いパリに居ると思って目を閉じて聞いて欲しい。
朝の3時から6時位
パン屋からは美味しい匂い
下水の臭いも混じる
自分の家族は貧しいが
敷石が敷かれた道に足音がする
コレが昔のパリの姿―
「The last song!」と、AUX DETENTEURSが始まる。
ROCKテイストな楽曲からZAZの強さが伝わってくる。
ZAZはZAZであり、ZAZ以外では無い。
歌姫だの何だのと並べるよりも、この言葉がZAZにはふさわしいと思う。
もし、新しいジャンルを作るとしたら”ZAZ”という新しいジャンルが出来たと言っても過言では無い。
素晴らしいステージを日本に届けてくれてありがとう。
音楽に言葉の壁というものは無く、あるのは”この音楽良いな”と思う純粋な気持ちなのかも知れない。
[TEXT by オオタニヒトミ]
[PHOTO by Shannon, Tsuzie Jackie]